chabbu2004-08-30



島田雅彦が、昔某紙上で「美味しいものばかり食べていると、舌が麻痺するからたまに不味いものを食べて感性を取り戻す」云々といった趣旨のエッセイを書いていた。助手は、基本的にこの意見に賛成である。更に、味覚だけではなく、感性全体が甘やかされていないかどうか試すために、昔から「自虐系喫茶」にしばし立ち寄ることにしている。ここでいう「自虐」とは、助手自身であり、「自虐系喫茶」とは、入るのも憚られるが、入っても体全体に何とも言えない違和感を感じるどうしようもない喫茶店のことである。まさに自虐的。
昨日の午後、小さい学生さんを囲碁教室に送った後、一時間半ばかり時間が空いた助手は、前から目を付けていた「自虐系喫茶」のひとつに挑戦してみることにした。そもそも、「カフェ」が存在しない山猫市周辺では、ほとんどの喫茶店が「自虐系」なのであるが、駅前に屹立するそれは、まさに王道に見えた。某有名メーカーの名を冠したそれは、仮に「山猫パーラー」としよう。パーラーであるから、タダの喫茶店とは違うというプライドが外観からにじみ出ているものの、いかんせん30年は軽く越えた老朽建築物であり、入ってお茶をしたいという欲望を積極的に退ける体を成している。要するに見た目が不気味なのである。
その「山猫パーラー」に蛮勇を振るって入った。戸口に手をかけた段階から手先がしびれるゥ、と思いつつ曇りガラスのドアをカラン、と開ける。すると、意外や意外、誰もいないと思っていた店内に先客二名を確認する。中央の一番上等(と思われる)席に陣取っていた。一名は、マイク真木リスペクト(間違いない)初老の男性。もう一名は、そのマイク真木もどき(山猫風にアレンジ済)にぞっこん風の中年女性である。これを見て、助手の自虐数値が急激に高まる。いそいで座るべき席を探す。と、右手に湾曲した階段が見える。手前に「お二階もご利用下さい」との表示。
「あの、二階いいですか?」
「二階はクーラー効いておりません」
.....仕方なく、先客の後方の小さな席に座る。メニューに目を通す。やはり「パーラー」であるから、ここはチョコレートパフェを注文する。全盛期の植木等が歌って踊れそうな内装の店内に一人座っていると心臓は否が応でも高鳴る。
出されたチョコレートパフェは、外見は非常にクラッシックなまでの美しさをたたえた、「ザ・チョコレートパフェ」であった。クリームや果物の配置が完璧ダー。
肝心のお味の方は...これも意外なことに美味しかったのである。新鮮な果物やアイスクリームを使用しており、特にバナナが沢山埋蔵されていたため、これでバナナパフェを注文していたらどういうことになったか、と心配するほどであった。
このようにパフェを堪能している間、例のカップルは去り、次に少年を連れた父親、そして女性の一人客が次々と来店した。見かけよりも、ここは繁盛(?)しているらしい。
完食し、代金(630円)を、白シャツ、黒ベスト、蝶ネクタイの老マスターに支払った助手は、山猫パーラーを後にしたのであった。

次は、小さい学生さんと一緒に来ちゃうかもしれない(笑)。